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月華

 投稿者:テレサメール  投稿日:2005年11月10日(木)20時07分37秒
  お味噌汁や煮物も平らげると、僕はお腹がいっぱいになった。

コロンと寝転がり、ぺろぺろと足を舐める。

『うぇ…なんで足なんか…ι』

…なんだか知らないけど、猫とは満足するとそこらじゅう舐めたくなるシステムになっているようだった。

『このまま本当に猫になってしまうのかもしれない…』

そう思うと、そわそわして無性に落ち着かなくなった。


「骨なんかとってもらうたぁ、随分いい身分だな。おまえ、ほんとに猫かぁ?」

そう言って覗き込むお父さんにも、ついびくっと身構えてしまう。

越前が僕を隠すように、それとなく位置をずらすと、

「なんだよ、俺には猫も見せたくないってぇのか?思春期は難しいね~」

などと言って、大げさに嘆いて見せた。


「…いいじゃん。」

越前はプイとそっぽを向き、僕に「おいで」と手を差し出す。

僕はこれ幸いと、急いでその手に飛び付こうとした…。



がっちゃーーん!!



派手な音と共に、お味噌汁のお椀が飛んだ。

勢い良く飛び跳ねた拍子に、うっかり蹴ってしまったのだ。

お椀は宙に舞い、くるりと一回転すると、
どうしたことか僕の頭にすっぽりかぶさってしまった。

「にゃっ!?」
『何!?』

何が起きたか一瞬理解できず、僕は驚いて逃げ出した。

「うにゃにゃ!?」
『何何!?』

「にゃっ!ぅにゃにゃ~!」
『まっくら!みえな~い!』

「せんぱ…、いやっ、しゅう!!」

越前がすぐにお椀をとってくれたが、
お父さんは大笑いだった。

「さっきといい今といい、こいつぁ~馬鹿猫だね!!」

「しゅうちゃん、大丈夫?」

菜々子さんもタオルを手渡しながらくすくす笑っている。

「まったく何をやってんの…ι」

越前はお味噌汁でべとべとになった僕を綺麗に拭いてくれたが、
僕は度重なる失敗にますますしゅんとなった。


「リョーマさん、お風呂沸いてるから、しゅうちゃんいれてやったら?」

「うん?…そうだね…、味噌汁臭くなっちゃったからね…。」

「ついでだからリョーマさんも一緒に入ったらいいわ、ね?」

「…え?…ぁ、ぅん…//」


菜々子さんに言われて、越前と僕は一緒にお風呂に入ることになった。
 
 

月華

 投稿者:亜葵  投稿日:2005年10月12日(水)15時11分8秒
  「…にゃぁ」
『…そんなに笑わなくてもいいのに』


くすくす笑い続ける越前に背を向け、しゅんと肩を落とす僕。

「…すみません」

どうにか笑いをこらえてますって感じの声であやまられてもさ…
なんて思っていると、ひょいと抱き上げられ、正面を向かされる。

「ネコなんだし、いいんじゃないスか?」

そういって背中を撫でる越前の目はひどく優しくて。

「ネコだからできるってこと、あると思うから…」
「………」
『…越前でもこんな表情するんだ』

生意気だとか一年のくせにとかいわれて、
でも、そんな言葉なんてどこ吹く風って全く気にしていなくて。
いつも、真っ直ぐ前だけを強気に見つめている越前しか知らなかった僕は、
越前の顔をじっと見つめた。

『越前も好きな人となら…こんな表情で
一緒にいるのかな』

ふとそう思ったとき、
頭がツキンと痛んだ。

『……っ!』

体がかすかにふるえたのが、
背中を撫で続ける越前の手にも伝わったのだろう。

「どうかしました?」

心配そうな顔で僕の顔をのぞきこんでくる。

「にゃあ…」
『なんでも…ない…と思う』

かすかに残る頭の痛みを一時的なものにして、
僕は、目の前で心配そうにしている越前の鼻の頭をなめた。

「にゃぁ」
『ご飯の続き、食べたい』
「……っ!」

突然鼻の頭をなめられて、
大きな瞳がさらに大きくなったあと、ふわっと微笑んだ越前は、
僕を抱きなおした。

「ご飯、食べてしまいましょうか。
骨が刺さらないように、とってあげますよ」
「にゃん」
『ぜひ、お願いするよ』

食卓に戻った僕たちを
奈々子さんが心配そうな顔で迎えてくれる。

「大丈夫ですか?」
「うん、骨はちゃんととれたよ。
でさ、ご飯を食べてしまおうと思って」
「よかった。
あ、じゃあリョーマさんのお味噌汁温めて直してきますね。
センパイの分はあんまり熱くないほうがいいですよね」
「先輩?」
「え…だって、そのコ『センパイ』って名前なんでしょ?」
「ああ…そうか…違うよ。『センパイ』じゃなくて……『しゅう』だよ。
それより、お味噌汁温めてもらってきていい?」
「ああ、ごめんなさい。すぐ温めてくるわ」

いそいそとキッチンへ歩いていく奈々子さんを見送り、
越前は僕を畳の上に下ろす。
そして、僕の分の秋刀魚を自分の方に引き寄せ、
骨を起用にとりだした。

『へぇ…魚の骨とるの上手いんだ』

感心してると、僕の前に骨のなくなった秋刀魚が置かれた。

「どうぞ。もう大丈夫ですよ」
「にゃん」
『ありがとう』

僕は心おきなく秋刀魚にかじりついた。
 

月華

 投稿者:テレサ  投稿日:2005年 9月12日(月)16時38分8秒
  「リョーマさんご飯よー」


しばらくすると、菜々子さんの呼び声が聞こえた。

越前は僕を抱いて階下に降り、食卓に座る。

するとお父さんらしき人が能天気に話し掛けてきた。

「よっ、青少年。相変わらず不機嫌な面してんな!…ん?」

お父さんは僕に気付くと、越前にそっくりな目で覗き込んできた。

「なんだその猫は?」

「…預かった。」

「預かっただぁ?誰にだ?」

「いいじゃん、そんなこと。」

越前はお父さんの詮索を適当に無視すると、僕を隣に座らせる。

すると僕の視界に、家の中の様子が一気に飛び込んだ。

畳に座卓、障子、茶だんす…

それから着物姿であぐらをかいた、変なお父さん…

面白いなぁ…、
日本の家庭って感じだなぁ…

じーと見ていると、
菜々子さんが目の前に食事を置いてくれた。

見ればそれは、

秋刀魚の塩焼きに里芋の煮物。
お浸し、お味噌汁…。

僕の家では滅多にないメニュー。


黙って眺めていると、

『…口に合わない?』

越前が心配そうに囁いた。

『ぅにゃにゃ!』

僕は慌ててぶんぶんと頭を振り、
急いで秋刀魚をかじった。

「…むにゃ!?」
『おいしい!?』


秋刀魚の塩焼きは今までにないおいしさだった。

たぶん猫の味覚が味を倍増させているのだろう、あまりのおいしさに僕はうにゃうにゃ唸りながら食べ始めた。

『…くすっ』

越前もやっと安心したのか、遅れて食事を開始した。



「…ぅにっ!?」

突然、口の中に痛みが走った。

「ぐにっ、ぐにゃっ、ぅにゃにゃ~~っ」
『歯に何かささったぁ~~っ』

僕は前脚で口を押さえながらくるくると畳を転げ回った。

…一応弁護させてもらうが、僕は普段ならこんなことは絶対にしない。
猫だから突発の出来事に対して理性より感情が先行してしまったのだ…。

もがき苦しむ僕を見て、越前はびっくりして叫んだ。

「先輩っ、どうしたの!?」

「…先輩だぁ?」
「それって名前?」

お父さんも菜々子さんも不思議そうな顔をする。

「いやっ、なんでもないっ」

越前は慌ててそう言い、僕を洗面所に連れていった。



「あ~あ、がっつくから…、じっとしててよね…」

「くぁにゃぁ」

僕は越前に間抜けな大口を開けさせられ、
なんとか骨をとってもらった。


「くすくす、イメージぶち壊し…」

「にゃっ///!!」


僕はすっかりしょげ返った…。
 

月華

 投稿者:亜葵  投稿日:2005年 8月 5日(金)17時33分59秒
  「ただいま」

玄関の扉を開け、中にはいると、
奥のほうからパタパタとスリッパの立てる音がした。

「おかえりなさい、リョーマさん。
あら…」
「ただいま、菜々子姉。
…ああ、コイツ?」

菜々子さんの視線に気付いた越前は、
胸に抱いた僕を抱き直して、菜々子さんに僕の顔を見せる。

「預かったんだ」
「そうなんですか。」
「うん。
で、こいつのご飯だけど、
俺の分を、半分味薄めにしてもらっていい?」
「カルピンと同じえさじゃなくていいの?」
「うん…こいつはちょっと特別なんだ」
「わかったわ。
材料は余分にあるから、
リョーマさんの分を半分にしなくても大丈夫ですよ。
味を薄めにですね」
「うん、お願い」

菜々子さんはまた廊下の奥へ
パタパタと去っていき、
越前は階段を上がって、自室の扉を開ける。

「まぁ、適当にしててよ」

そういって、僕をベットに降ろすと、
制服から私服に着替える。

『そういえば、越前の部屋に入るのって
初めてだよね…』

なんて思いながらきょろきょろしていると、
着替え終えた越前が僕の横に座り、背中を撫でる。
僕の背中を撫でる手はとても優しくて心地いい。

ゴロゴロと喉をならして、
心地よさに身を任せていると、

「…ごめん」

ふいに越前がつぶやく。
なにを謝っているのだろう。

「みゃぁ…」
『…越前?』

見上げると、部室で見せた
少し悲しげな微笑で僕を見下ろす
越前と目が合う。

「見つかるといいね…」
「みゃぁ?」
『なにを?』
「…………」

その後、越前は菜々子さんが食事だと呼びにくるまで
口をきくことはなかった。
 

月華

 投稿者:テレサ  投稿日:2004年11月11日(木)11時52分16秒
 
「にゃぅっ…」
『怪しいよね…』

僕には越前が空とぼけているとしか思えなかった。
しかし越前はそれ以上は何も言わず、
僕は否応なく部室に連れて行かれたのだった。




部活が終わり、それぞれが着替え終わった頃、

手塚が越前に声をかけた。

「猫は連れて帰るのか?」

「そうっすけど?」

手塚はベンチに行儀よく座っている僕を見ながら言った。

「…猫という動物は、もっと気紛れで言うことを聞かないものだと思っていたが…」

言いかけてチラリと英二を見る。

「…にゃに?手塚?」

そばで聞き耳を立てていた英二が素早く反応したのに、手塚は慌ててかぶりをふった。

「いや、なんでもない。」

越前はクスクス笑う。

「いや…、やけに聞き分けがいいと思ってな…」

手塚はコホンと咳払いをした。

「…それだけっすか?」

越前が悪戯っぽく囁いた。

「誰かに似ていると思っているんでしょ?」

手塚が眉をしかめたのに構わず、越前は続けた。


「不二先輩に…」



「…!」



手塚がかすかに感情を表した顔で越前に向き合おうとしたとき、

「ああ、それ…」

横から乾が口を挟んだ。

「俺もそう思ったよ。色といい、毛並みの良さといい、笑顔といい…」

「猫が笑顔になるんスか?」

またまたその横から海堂がボソリと口を挟んできた。

「ん?似てないか?目を線にするとこ…」

「つぶってるだけじゃないっすか?」

「そりゃそうだにゃ~」

その場に居合わせた皆が一斉にあはは~と笑った。
その間に手塚の表情は元に戻ってしまい、僕はがっかりした。


「とにかく似てるんだ、不二に。」

乾は話を無理矢理まとめる。

「うん、確かに似てるかも…。不二…、早く帰ってこないかにゃ…」

英二が僕の頭をつつきながら、淋しそうに呟いたのに、
僕は申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

手塚はそんな間にも僕を見つめていた。
そっと手をのばして頭を撫でる。

その時手塚の目に、英二に負けず劣らず淋しそうな影をみつけ、僕の心臓はドキンと高鳴った…。


「さ、帰ろ」

越前が僕を抱き上げた。

僕は名残惜しそうに手塚を見上げたが、

越前はそれに気付いてか気付かずか、さっさと挨拶をして桃と連れ立って部室を出てしまった…。



帰り道、僕は桃と越前の会話を興味深く聞いていた。

僕がいなくなってレギュラー席に余裕が出、ランキング戦に熱が入らなくなったこと…

乾と海堂が怪しいこと…

大石のヘアスタイルのこと…

手塚は小学校時代何年留年したのだろうかという冗談…

『桃は面白いなぁ…』

そんな間に、越前は桃と別れ、家に着いた。
 

月華

 投稿者:亜葵  投稿日:2004年11月 1日(月)01時46分0秒
  「ここらへんで…」

越前は僕をコートのそばのベンチへと降ろした。

「寝たかったら寝たらいいし、遊びたかったら、その辺のボールで遊ぶとかね」

黄色いボールを1つ拾って、僕の前に置く。

「さてと、走ってくるかな。またあとでね…」

僕の頭をそっとなでて、越前はコートをでて、校庭10周へと向かう。

「にゃぁ…」
『いってらっしゃい』

1人ベンチに取り残された僕は、
これからどうなるのだろうと、改めて考え始めた。

でも、訪れた睡魔に思考はすぐに途切れた…



「あぶないっっ!!」
『…えっ』

大きな声に目が覚める。
なぜか少し薄暗い。

『あれ、僕、外にいたはず…』

視線を上げると大きな背中。

『ああ、影のせいか…
でもなんで、彼はここにいるんだろう』

「大丈夫!?」

越前が彼を押しのけて僕を抱き上げる。

「にゃ?」
『なにがあったの?』

「すみませ~ん…」
「…気をつけろ」

手塚が近づいてきた部員にボールを手渡す。

「部長…ありがとうございます」
「たまたま、近くにいただけだ…」

「にゃぁっ」
『だから、どうしたの?』

「よかったね…」

越前が僕を胸に抱き締めて、背中を撫で始める。

「さっきの人が打ったボールが、こっちに飛んできて、
もう少しで直撃するところを部長が助けてくれたんだよ。」


…とくん

『彼が…?』

…とくん

どうしよう…うれしい…

僕は、越前の腕からするりと降りると
彼の足元へ身体を摺り寄せた。

「みゃぁ~」
『ありがとう』

「なんだ?」
「ありがとうって、いってるんですよ。
抱き締めてあげたらどうですか?」

僕は身体を擦り付けたまま、彼を見上げる。

「みゃぁう~」
「……」
『…あっ』

手塚は身を屈めて、僕を足から引き離す。
そして、越前に手渡した。

「…外は危ない。
部室にでも入れておいてやれ」
「……」
「越前?」
「…わかりました」

僕を抱いて、部室へと歩き出す越前の肩越しに、
手塚を見つめた。


……さっき、笑いかけてくれたよね
………助けてくれたのは…ただの偶然…それとも……



「……っとに、素直じゃないんだから」

ぼそっと越前がつぶやく。


『そうだ、越前。
君は、なにを知ってるの?
さっきから、意味深なことばかりいっているよね。』

手塚から視線を越前に移す。
視線だけを僕の方に向けた越前の横顔を見上げる。

「さぁ…たいして知らないですよ。
あんたが『不二先輩』だってことくらいしかね…」
 

月華

 投稿者:テレサ  投稿日:2004年 9月22日(水)11時01分3秒
  …なんで俺に、

とでも言いたげな顔で、彼――、手塚は、僕をしぶしぶ受け取った。

「おい越前、早くしろよ!」

初めて動物に触れるかのような、おっかなびっくりの抱き方に、
僕は嬉しいような、恥ずかしいような、くすぐったい気分になって思わず笑ってしまった。

とは言っても笑えるわけではないから、

「みゃっ!」

と、小さく鳴いただけだったけど…。

それでも彼の心地よい体温と、うっとりするような匂いに包まれて、
僕はゴロゴロと喉を鳴らした。


「そんな抱き方なのに、よく嫌がらないな?」

乾が不思議そうに覗き込む。

「それに、やけにご機嫌だにゃ?」

英二にまで言われて、僕はどっきりした。

『そういえば、どうしてこんなに嬉しいんだろう…//?』

ちら、と越前をみると、頭に被せたポロシャツの襟首から、目だけ覗かせてこちらを伺っている。

視線が合うと、

ニヤリ…、と目が細められた。

…にゃっ!?
『笑われた!?』

僕は心の内を見透かされるような気がして、慌てて目を逸らせた。


それにしても手塚の手つきのなんとぎこちないことか…。

眉間にしわを寄せた仏頂面に子猫…、はあまりにもミスマッチで、逆に微笑ましささえ感じてしまう。

将来、パパになって初めて赤ちゃんを抱っこするときもこんな感じなんだろうな…

僕はそんな新米パパの手塚を思い浮べながら、
その隣で微笑む僕の姿まで想像しかけて、

ハッと我に返った。

やだ…//男同士で…!!

僕はぶんぶんとあり得ない妄想を追い払った。


「越前!ぐずぐずするな!」

手塚が再び越前を促した。

慣れないことにかなりストレスがたまってきているようだ。
僕はなんだか悲しくなって、

「みゃぁ~う~…」

と甘え声で鳴いてみた。

「…!!」

おとなしかった僕が突然鳴いたので、手塚はびっくりしたように僕を見た。
そして、

「、…―おまえ…?」

怪訝そうに僕を覗き込んだ。

「…おまえ、不二に…」

「部長、おまたせっす。」

そのとき越前が声をかけた。

「うん?…あぁ…、」

手塚は言い掛けた言葉を引っ込め、
そそくさと僕を越前に手渡した。
そして何事もなかったように、

「だいぶ時間を無駄にしたぞ!全員校庭10周!」

そう言って、さっさとコートに戻ってしまった。



「ちぇっ、相変わらず石頭だなぁ…」

越前はそう言いながら、…ね?と、僕に意味深な相づちを打つ。

しかし僕は手塚が僕に感付いたのだろうかと、そればかり気にして、見上げることはしなかった。


そんな僕を越前は無言で片手に抱き直すと、
そのままコートへと走り出していった。
 

月華

 投稿者:亜葵  投稿日:2004年 9月 6日(月)00時59分36秒
  「ふにゃ~~」

僕を見つめる視線と、大きな声から逃れたくて、
僕は越前の腕の中で身じろぎした。

以外にも越前はあっさりと腕を緩めて僕を解放してくれる。

僕はひらりと越前の腕から飛び降りると、
とりあえず乾の元へ行こうと足早に部室を歩く。

「あ、にゃんこっ!どこ行くの!?」

僕を捕まえようとのばした英二の腕が越前に掴まれる。

「なに?越前」

「好きにさせてあげましょうよ。
ネコってそういうもんでしょ?」

僕は足を止め少し振り向いて越前と英二を見上げる。

「うにゅ~…おチビは今までだっこしてたじゃん。
俺も、にゃんこ抱っこしたいのっ」

恨めしそうに、越前を睨む英二。

「ですから…英二先輩にかまってほしければ、ネコのほうからくるっスよ。
無理に掴まえてもすぐどこかに行こうとしますよ。
それでも、いいんですか?」

「うう…それは、ヤかも。
にゃんこぉ~後で俺とも遊んでね」

越前に腕を離してもらった英二は、
その場にしゃがんで僕に声をかける。

「にゃ…」
『英二がもう少し、静かに話してくれたらね』

僕は英二に返事をして再び歩き出す。
すると、また扉が開いた。



…トクン
……トクン…


静かに開いた扉の向うに立っていた人影になぜか胸が高鳴る。


『…だあれ?』


「騒がしいぞ。早く着替えてコートへ…」


そういいながら入ってきた彼の動きが止まる。
その瞳は僕を見つめる。

僕も彼の瞳を見上げる。


「…だれだ?」


「にゃ…」
『僕は…』


「誰だ、ネコを部室に連れてきたヤツは」

「俺だよ」

乾が彼の近くに歩いていきながら、
これまでの事情を説明する。

「…ということなんだ。
別にかまわないだろう?」

「…今更、ダメだといってもどうしようもないだろう」

目を伏せ軽くため息をつく彼。

「で、情報は集まったのか?」

「いや、全く。
俺もついさっき着いたとこなんでね」

軽く肩をすくめる乾。

「さて…とりあえず着替えてコートへ…
ん、どうした?」

部室に入ってきた彼を見つめたまま動けないでいる僕。

『…どうしたんだろう。
すごく、どきどきする。
でも…彼は…』

「にゃっ!」

不意に体が浮き上がる。
振り向くと、越前が僕を後ろから抱き上げていた。
胸に抱き締めなおすと、首元を指先でくすぐってくる。

「にゃぁ…」
『越前…』

「先輩達…このネコしばらく俺に任せてもらえませんか?」

「越前、このネコのこと何か知ってるの?」

英二が越前の横によってきて、
僕の頭をなでる。

「このネコは…」

「このネコは?」

越前にはめずらしく言葉を途中で切る物言いに、
部室にいた部員達は越前の返事を静かに待つ。

「…なんでもないっス。
ネコ、飼ってるから少しはわかるってだけのことですよ。
とりあえず、練習中はコートのベンチにでも座らせておけばいいと思います。」

「…越前がそういうなら、任せてみようか」

乾が眼鏡の位置を直しながら、
僕に近付き頭をぽんぽんと叩く。

「なんかあったら、俺のとこに帰ってこいよ」

「にゃぁ」

「…それ、どういう意味っスか?」

「別に、深い意味はないさ。
ただ、こいつを最初に見つけたのは俺だからね。
少し、気になるだけさ」

「……」

きゅっと僕を抱き締める越前の腕に力が入る。

「…とに…ないんだから…」

「なにかいったか?」

「いえ…とにかく、預からせてもらいます」

「ああ、頼むよ」

『…ねぇ、越前。
なにが「ホントに、仕方ない」の?
君はやっぱり僕のことわかるの…?』

腕の中から見上げる僕の視線に気付くと、
視線を落として、僕を見つめる。
そして…少し悲しそうに笑った。

「…後で」

小さな声でそういって僕の頭に頬ずりをして歩き出す。

「にゃぁ…」

どこに連れて行かれるのだろうかと視線を前に戻す。

『…あ』

「スミマセンが…こいつ持っててもらえます?」

越前は僕を胸から遠ざけ、彼の前に差し出した。

「…俺が?」

「ええ。俺が着替える間だけでもいいんで、お願いします」
 

月華

 投稿者:テレサ  投稿日:2004年 7月26日(月)11時03分39秒
 
「にゃっ!?」

とびきり大きな目に見つめられて、僕はたじたじとなった。

『越前の大アップだぁ~』

思わずきゅ、と目をつぶって、縮こまる。

すると――、


『……じ…、せん…ぱい?』


小さく、小さく越前が囁いた。


…ぇ?


恐る恐る目を開けると、僕をじっと見つめている大きな瞳と目が合う。

『え…ち…ぜん?』

越前は、にやり…、と、不敵な笑みを浮かべた。


…僕がわかるの!?


僕は驚き慌てた。

言葉まで通じるかどうかはわからないが、必死になって訴えかける。

「にゃー!にゃー!みゃぁぁー!!」
『なんでわかるの!?君は何か知ってるの!?』


「…おい、越前、悪さするんじゃない。」

腕の中で騒ぐ僕をみて、乾が見かねたように声をかける。

「何もしてないっすよ…」

越前が空とぼけたように言いながら僕の頭をポンポンと叩いたその時、

勢い良くドアが開いた。

「ごめ~んっ!遅くなったにゃ~!」

『…英二だ!』

僕はどきん、とする。

「つい寝ちゃ…、ん…?」


『こっち見た…!』


「あっれぇ~~!?」


英二は思った通り、好奇心丸出しにしてこちらに突進してきた。

「おチビ!どぉしたの!にゃんこ!!かっわいぃ~っ!!!」

脳天にビリビリ響く大声…。

『ぅわ…、英二って、すっごい騒がしいんだ…』

アンテナのように並んでいる二つの耳のせいか、人間のときよりも余計に頭に響いてクラクラする。

加えて越前と負けじ劣らじの大きな目が、またまた僕を興味深く覗き込んだ。

…ふにゃぁっっ

あまりにもでっかい四つの目玉。
それが交互にパチパチと瞬いて、僕は目が回りそうになった。
 

月華

 投稿者:亜葵  投稿日:2004年 7月11日(日)20時34分36秒
  「クスクス…この子、勘がいいようね。
さすが動物ってとこかしら。

『実験』はやめておきなさいね」

「…いってみただけだよ」

…よかった。
ほっと、身体の緊張をとく。

乾の母親は僕を抱き上げて、
頭から背中にかけてそっとなでてくれる。

気持良さに自然とゴロゴロと喉がなる。
ネコととしての基本的な行動が既に身についてしまっていることに
漸く気付く。

…いいんだろうか、これで。

「…は無理ね」

え?

考えに耽っていた僕の意識は
乾の母親の声に現実に戻された。

「……」

なにかを考え込む乾。

「とりあえず、父さんが出張から帰ってくるまではいいってことだよね」

「ええ。
本当は飼い主が見つかるまで飼ってあげたいけど、
あの人、動物だめだから…」

「いいよ、仕方ない。
もし、それまでに飼い主が見つからなきゃ
誰か預かってくれる人を探すさ。」

乾は僕を母親から受け取ると、
自室へと移動した。

僕を床の上に降ろすと、
身支度を整える。

「さて…俺はこれから部活なんだ。
今日はそんなに遅くまでしないはずだから、
帰ってきたら、飼い主を探しに行こう」

「にゃぁ!」
『僕も行く!』

「ん?どうした…
ちゃんと大人しくしていろよ」

「にゃぁ」
『連れってって』

僕はしゃがんだ乾の肩に飛び乗る。

「おいおい…どうしたんだ?
俺はこれから、でかけるんだよ。」

乾は僕を肩から降ろそうとするけれど、
僕は乾の肩にしがみついた。

乾は小さくため息をつくと、
カバンを持って部屋を出て、再び母親のいるキッチンへと入っていった。


「母さん、こいつとって。」

「あらあら…」

そういって、僕を乾の肩から降ろそうとする。
僕は乾の服に爪を引っ掛けて、ふんばる。

「にゃぁ、にゃぁ~」
『お願いだから、部活に連れてって。
行かなきゃいけない気がするんだ。』

「この子、外に行きたいんじゃない?」

「う~ん…」

「今日って、部活だけなんでしょう?
連れてってあげたら?」

「でも…」

「誰か、この子のこと知ってる人いるかもしれないわよ。
大丈夫じゃない?この子お行儀よさそうだし。
ね?お前、外行きたいのよね~」

「にゃ!」

わかっているのかいないのか…
どちらにしても乾の母親は、僕の気持ちを代弁してくれる。

「わかったよ…
お前、大人しくしてろよ。

いってきます」


そういって、乾は僕を肩に乗せたまま家を出た。


「ねぇねぇ…ホラ、あの人の肩に…
きれいなネコね…」


学校までの道ですれ違う人たちが、乾を振り返る。
まぁ、肩にネコを乗せて歩いていれば、みんな見るか。

乾はさして気にしたふうもなく、歩きつづけた。
やがて、学校に到着した僕達はテニス部の部室に向かった。


トクン…


胸が高鳴る。


あの人に会える…


…あの人って…誰?



「おはようございま…
乾先輩…ソレ…」


部室に入ると、いつもギリギリにしかこない越前がいた。
こちらに顔を向けると、乾の肩に乗る僕に気付いたのだろう。

大きな瞳がさらに大きく見開かれる。
その瞳が僕を見つめたまま、こちらに近付いてくる。

「乾先輩…ソレ…」

また同じ言葉をつぶやきながら、乾の袖をひっぱる。
乾は少し肩を越前のほうに傾けた。

「今朝…
……聞いてないか」

越前は僕を乾の肩から降ろすと、
ぎゅっと抱き締めて、部室のすみに置いてあるベンチに座った。
 

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